チェロ多重録音の投稿が続きます。 今回は、ちょっと軽いノリで、『ジ・エンターテイナー The Entertainer 』。 19世紀末から20世紀初頭にかけて多くのラグタイムの曲を作曲し、後に「ラグタイム王 King of Ragtime 」と呼ばれるようになるスコット・ジョプリンの、1902年の曲です。
当時、教育を受ける機会がほとんどなかったアフリカ系アメリカ人のジョプリンの話、ジャズの源流の一つともいえるラグタイムの話、ジョプリンの死後70年も経ってからこの曲がテーマ音楽として使われて大ヒットした映画『スティング』の話など、トピックには事欠かないのですが、僕は多重録音をする上での、この曲ならではの工夫などをお伝えしたいと思います。
多重録音は今回で4回目ですが、前回までのクリスマス・キャロル2曲とバッハの『G線上のアリア』はテンポの揺れがほとんどなく、タイミングを合わせるのが難しいといっても、まだまだ楽な方だったと今回、思い知らされました。
ラグタイム Ragtimeは、一説に Ragged-time (「ずれた時間」の意味)が語源とされますが、ピアノによる原曲の楽譜は左手が刻む2拍子の伴奏に、シンコペーションの効いた右手のメロディーが乗った単純なものです。シンコペーション効果が独特の「ずれ」感を生みますが、リズムは全体に規則的で、それほど難しいものではありません。
ただしこれをメトロノームに合わせたように弾いては面白くもなんともないので、グルーヴ感(いわゆるノリ)が出るように緩急をつけていきます。
ちなみにグルーヴ感というのはブラックミュージックに限ったことではなく、たとえばバロックアンサンブルをやるにもこれに似た感覚を共有できるかどうかはものすごく大事です。
アンサンブルをじっさいにやる場合、アイコンタクトや呼吸、ちょっとしたアクションなど言語以外のさまざまな合図で息を合わせて演奏します。これがアンサンブルの醍醐味ともいえるわけですが(そして僕がアンサンブルが大好きなのもそれが理由なのですが)、一人で多重録音をする場合、これが難しいのです。
息を揃えて同時に演奏するわけではないので、どうしてもずれてしまう。それを避けるために、最初は一人で指揮をする動画を撮ってからそれに合わせて各パートを録音したりと、いろいろ試行錯誤してみました。結果的には、最初にメロディー担当の1stチェロの音源を聴きながら、他のパートを重ねるという従来の方法に落ち着いたわけですが、自分同士で息を合わせるというのが、ジ・エンターテイナーのような緩急ある曲の場合は思ったよりも難しかったという感想です。
今回は練習として、一人でPCを使って録音し、ガレージバンドというソフトで編集するところまで、自分でやってみました。ほぼ一日がかりでしたが、何とか納得できるところまでいったので、別の日に姉に頼んで、ちゃんとマイクで音を撮ってもらい、また映像も別に収録してもらいました。それでも本番の収録は僕が色々こだわったせいで、また2日がかりになってしまいました。
僕はソロで弾くよりもアンサンブルが好きなのですが、チェロ4本、仲間同士で気軽に集まって合わせてみよう、というのはスケジュール合わせや場所取りなどを考えると簡単ではありません。
多重録音は、「5分前の自分あるいは自分たち」に合わせるアンサンブル。そう考えると、自宅でいつでも気軽に楽しめる多重録音への意欲は尽きません。
今年もありがたいことに、2月、3月、4月と本番があってそのための練習は欠かせませんが、合間をみて多重録音を続けていこうと思います。
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